医療法人・清潮会 さんクリニック
松本 喜代隆
私たちは、成果や結果から逆算して、今をがんばりなさいという声に追いたてられています。不登校やひきこもり状態が続くと、あたかも恐ろしい最後がやってくるかのような扱われ方です。心配する気持ちも、なんとかいい未来を、という願いもよくわかります。
しかし、その願いになかなか応えられなくて、ひそかに自分の人生を貶(おとし)めている人が大勢います。ひきこもり状態の人は、ひきこもっていない人たちと同じように、ただそれぞれの固有の人生を歩んでいるだけだ、という考え方が必要だと思うのです。そのために、もし自分が、あるいは自分の子どもが、「小さな個人商店」だったら、と考えてみませんか?
生き残れるか、生き残れないかというモノサシ、つまり経済性だけをあてはめると、今の時代、個人商店は黙って引き下がるしかありません。では、生き残れないから、個人商店をやめるのか?となると実はそう単純な話ではありませんよね。私はこういう生き方が好きなのです、たとえ将来が成功しなさそうでも、私にはこの生き方が合っているのです、という人もいるでしょう。通常私たちは、こういう話を聞いたら、それもひとつの生き方だなーとリスペクトすると思うのです。自分にはとてもまねはできないけれど、その生き方を尊敬し、今の世の中に、そういう生き方を生きている人がいることを、生きていく勇気のように感じるかもしれません。
ある戦場カメラマンが、なぜ生きるのかという若者からの問いに、生きているとたまにいいことがあるからです、と答えていました。「いいことは人によってもちろん違うが、それぞれの人に、それぞれの形で、時々、しかし必ずやってくる。それを頼りに私は生きています」と答えていました。
この言葉は大切だと思います。最高最大の幸せを待っているとなかなか来ないでしょうが、「小さな」いいことは誰にも必ず時々やってきます。この、「小さな」というところがコツなのです。舌切り雀のお宿の、大きな葛籠(つづら)、小さな葛籠の話のように、「大きい」からいいというものではありませんからね。
それから、自分を「小さな飛行機」に重ねてみることもおすすめです。この小さな飛行機は、とてもたくさんの小さなエンジンによって飛んでいます。この小さなエンジンを、あなたにとっての「小さな味方」たちと考えてみることも悪くありません。スーパーなオンリーワンの友だちはいなくても、その気で見渡せば、まわりに小さな味方はたくさんいます。
時々小さないいことが訪れることを信じて進んでほしいものです。そして、さらに、時々目を閉じて、自分という「小さな個人商店」「小さな飛行機」をイメージしてほしいと思います。「小さな個人商店」という生き方が世の中にはあり、「小さな飛行機」も飛んでいます。けなげに飛んでいる「小さな飛行機」の、その「小ささ」を心に抱きしめてほしいと思います。自分という飛行機ですからね。