認知症の方の歯科治療、有病者の歯科治療を主に行っています 長崎市布巻町にある三和中央病院内の歯科診療室です 

 

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口腔の役割

認知症と口腔機能

口腔ケア

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口腔ケアの意義

 

 皆さんも、「口腔ケア」という言葉を御存知の方は多いでしょう。

 

 かなり以前から口腔ケアの重要性については着目されていたと思うのですが、平成12年に静岡の米山武義先生が、口腔ケアの有用性について発表されてから、誤嚥性肺炎の予防という観点からの口腔ケアの重要性が爆発的に広まったものと私は思っています。

 肺炎は老人にとっては重篤な疾患で、原因別死亡率では肺炎は4位に位置しており、肺炎で死亡する人の92%は65歳以上の高齢者です。

 米山先生の研究によると、歯科側が介入した口腔ケアを行った群では、従来の単純な清掃を行った群と比較して、発熱や肺炎の発症回数が有意に減少しています。また、肺炎が原因の死亡例では、専門的口腔ケアを行った群に比較して、そうでない群の死亡例は約2倍だったという結果が出ています。

 これだけでも、歯科と病棟が連携した口腔ケアが、肺炎の抑制に非常に有用であることがわかります。

 

 口腔内の細菌の数を御存知ですか?歯がある人の場合、口腔内には300〜400種類の細菌が存在し、その数は、

 

 よく磨く人の口腔内細菌数        1000〜2000億個

 あまり磨かない人の口腔内細菌数    4000〜6000億個

 ほとんど磨かない人の口腔内細菌数  1兆個(!!!)

 

 この細菌の中には、特に口蓋(口の天井の部分)や舌の表面に、肺炎の原因菌が潜んでいます。そのため、歯の周りだけでなく、歯肉や舌、口蓋の粘膜を清掃することも非常に重要になります。また、歯周病菌は全身疾患との関連も報告されており、心疾患、脳血管系の疾患、糖尿病などとの関連性が注目されています。

 

 口腔清掃・口腔ケアを行うことは、歯や歯茎などの歯周状態を良好に保ち、口腔機能を保持・改善するのみならず、肺炎等の感染症を予防し、尚かつ日々の生活をより質の良いものへと変化させる重要なことなのです。

 

 

当診療室の取り組み

 

 しかしこれらの有用性は、未だベッドサイドのスタッフには周知されていることではありません。

 肺炎は老人にとっては非常に恐ろしい疾患ですが、現状口腔が汚れた状態の患者様が多いのでは、肺炎の発症を防ぐことはできません。

 これでは患者様への良質な医療サービスも何もないなと思い、自分から動き出すことにしました。

 

 まずは、と思い、看護部長へ勉強会の開催を打診し、看護師向けの勉強会を行いました。口腔ケアについてはその重要性と特に看護師の役割が大きいことを話しましたが、一部には好評だったようで、院長の指示のもと、内科医師、看護部長の協力を得て、モデルケースとして南-3病棟から口腔ケアを開始することとなりました。

 

 基本的には、ベッドサイドで看護師さんに毎日のシステム的清掃を行って頂き、週に1回私どもの歯科スタッフが病室を訪問し、専門的な口腔ケアを行っています。この際には、歯科衛生士と看護師さんが一緒に清掃を行います。これが看護師さんのスキルアップにつながります。

 南-3病棟の看護師さん達は非常に熱心で、目に見えて患者様の口腔内の状況が改善されていることがわかります。口臭も極度に減り、歯肉の状態もあきらかに良好になってきました。さらには、最初は嫌がっていた患者様が、今では抵抗もなく口を開けてくださるのです。これはスタッフともども非常に喜んでいます。

 現状の情報共有のため、定期的なミーティングを行っています。現在複数病棟で行っていますが、病棟によっても温度差が激しく、熱心に行う看護師とほとんど興味を示さない看護師は極端に分かれています。

 少しずつ末端の看護師にも理解を求めながら続けていこうと思っています。

 

「オーラルケア」から「オーラルヘルスケア」へ

 

 通常口腔ケアという言葉を耳にすると、口腔清掃のことを思い浮かべることが多いと思います。

 オーラルヘルスケアという言葉を耳にすることがあります。その概念は、清掃のみならず、虫歯の治療、入れ歯などの治療、歯周病の治療も行い、また食べる機能、話す機能、嚥下機能、その他重要な機能を維持・改善させ、健康を維持し人間としての生活の質を向上させるという考えにあります。

 

 ずっと入院して体を動かさなかったら、筋肉の働きが弱ります。体の各部位を損傷した際には、リハビリを行います。つまり、本来の機能を一定期間使っていなかったら、その機能は低下し、また本来の機能に戻すにも非常に時間がかかるのです。

 機能低下したままで順応していると、そのレベルに落ち着いてしまい、もとの機能へ戻すのが困難となります。これを廃用症候群といいます。

 口腔機能についても、できれば廃用症候群は避けたいところです。そのためには、なるべく早期の治療とケアが重要になります。放っておけば放っておく程、状態は悪くなり、またもとの機能に戻すのも極めて困難になります。

 例えば、歯がないからと言って、軟らかい食事ばかり採っていると、口腔機能がそれに慣れてしまい、その後常食に戻そうとしても困難です。特に筋肉についてはかなりのスピードで機能が低下します。歯肉や残存歯、はたまた顎の関節にまで正常とは異なる負担がかかってしまいます。私は歯を喪失したケースでは、なるべく早く入れ歯やブリッジを作るようにしています。特に認知症の患者様では、発症した後に新しく入れ歯を入れようとしても拒否される方が多いです。慣れることができるうちに慣れるのがベストだと考えています。

 

 口腔は、頬、歯、骨(上下顎骨)、舌、喉の部位など、様々な部位や器官が平衡を保って始めて理想的な機能を発揮します。歯に関しては、外側から頬の力、内側から舌の力がかかっており、これで水平的な位置を保っているのです。高さについても上下の歯の調和、噛み合わせの平面を適正に保つことにより、顎の関節や噛む際に使う筋肉と調和を保っているわけです。

 いずれかの一つでも状態が悪くなると、必ず他の部位に影響を与えることになります。

 

 これらのことを踏まえ、単純に清掃のみでなく、機能や審美性、各々の構造の調和をはかり、より人間らしい口腔機能を提供することが、「オーラルヘルスケア」だと考えています。

 

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